【代謝を上げる】第3の代謝「食事誘発性熱産生」を知ろう

当ページのリンクには広告が含まれています。
第3の代謝「食事誘発性熱産生」を知ろう

 AROUND60 FITNESS(ロクマルフィット)をご覧いただきありがとうございます! 筋トレ歴10年の副業ライターあんじょうです。

 先日、「代謝を上げる」話を投稿させていただきましたが、その際に割愛した話として「食事誘発性熱産生」というものがあります。この「食事誘発性熱産生」も代謝の一種なのですが、本日はこれについて取り上げたいと思います。

 ダイエットで食事管理をされる方にとって「何を食べれば太りやすい・太りにくい」という話題は気になるところだと思いますが、そんな方に知識として知っておいていただいて損はないお話です。

 本文の骨子は以下のとおりです。

  • 代謝には大きく分けて3種類ある(基礎代謝・活動代謝・食事誘発性熱産生)
  • 「食事誘発性熱産生」は食事によって発生する熱(=消費されるエネルギー)。カロリー消費全体から見ても意外と馬鹿にできない比率を占めている
  • その消費カロリーの大きさは食品の成分(栄養素)によって異なる。食事に伴うカロリー消費が大きい食品は実質的に食品そのもののカロリーよりも低カロリーだと考えることができる。
  • 食事誘発性熱産生を上げる方法はいくつかある。巷で言われている説を紹介。
  • 「食事誘発性熱産生を上げる」ことはダイエットに有効なのか?実際に「どの程度上がるのか」をシミュレーション

それでは、本日もよろしくお願いします。

目次

代謝の種類について

 代謝(エネルギー代謝)には大きく分けて3種類あります。「基礎代謝」「活動代謝」そして「食事誘発性熱産生」です。

 基礎代謝と活動代謝については以前に投稿した記事に詳述していますが、ごく簡単に書くと以下のとおりです。

基礎代謝

 呼吸や心臓の拍動、脳や内臓の活動、体温維持など生命を維持するために使われるエネルギー(を産み出すこと)。就寝など安静にしているときでも発生し、1日の総消費エネルギーの6割から7割を占めると言われている。

活動代謝

 運動や仕事・家事など身体を動かすために使われるエネルギー(を産み出すこと)。1日の総消費エネルギーの2割から3割を占めると言われている。

 つまり、基礎代謝は「生きて呼吸しているだけで必要なエネルギー(or 消費カロリー)」、活動代謝は「運動に必要なエネルギー(or 消費カロリー)」と考えていただければ良いかと思います。

 詳細は、以下リンク先の記事を参照してください。

 さて、この2つの代謝は比較的一般的にも知られているのですが、今ひとつ知名度の低い代謝の種類があります。それが本日ご紹介する「食事誘発性熱産生」です。

食事誘発性熱産生とは

 「食事誘発性熱産生」…普通に生活している限りはあまり耳にしない言葉です。言葉から想像すると「食事が誘発して熱を産み出すこと」のように読み取れますが、正確な言葉の意味を厚生労働省のサイトから抜粋させていただきます。

食事誘発性熱産生とは…

食事をした後、安静にしていても代謝量が増大すること。

食事を摂ると体内に吸収された栄養素が分解され、その一部が体熱となって消費されます。このため食事をした後は、安静にしていても代謝量が増えます。この代謝の増加を食事誘発性熱産生(DIT: Diet Induced Thermogenesis)または特異動的作用(SDA: Specific Dynamic Action)といいます。

引用先:e-ヘルスネット(厚生労働省)

 心臓が動いて呼吸をするだけでもカロリーが消費されるのと同じく、食べて内臓を動かして消化吸収する過程でエネルギーを熱として放出している、ということですね。

「食事誘発性熱産生」でどのくらいエネルギーを消費する?

 では、この「食事誘発性熱産生」でどのくらいのエネルギーを消費することになるのでしょうか。先ほど引用した、厚生労働省のサイト「e-ヘルスネット」によると、エネルギー消費量は消化する栄養素の種類によって異なり、

  • たんぱく質のみを摂取した場合は摂取エネルギーの約30%
  • 糖質のみを摂取した場合は摂取エネルギーの約6%
  • 脂質のみを摂取した場合は摂取エネルギーの約4%


…となるそうです。ただ、通常の食品はこれらの栄養素が混ざっていますので、平均すると摂取エネルギーの約10%程度が食事時に熱として消費・放出されているということになるようです。

 そして、この「食事誘発性熱産生」は1日の総消費カロリーの約1割を占めると言われています。内訳は基礎代謝6割、活動代謝3割、食事誘発性熱産生が1割といった具合。それほど多いわけではありませんが、無視できるほど小さい割合でもありません。

 食事誘発性熱産生の高低がダイエットの際に少なからず影響する可能性を念頭に置き、もう少し掘り下げて確認していきましょう。

後に触れますが、たんぱく質は炭水化物や脂肪に比べ消化する際に5〜7.5倍もエネルギーを消費することに注目したいですね。

どうやれば食事誘発性熱産生は上がるのか?

 前項で参照した厚生労働省の「e-ヘルスネット」の記事によるとたんぱく質は他の栄養素よりも食事誘発性熱産生が5〜7.5倍も大きいということでした。 言葉を変えると、高たんぱく質の食事を心がければ、食事誘発性熱産生は増える、ということです。

 また、先ほど参照した厚生労働省の「e-ヘルスネット」によると、「食事誘発性熱産生は、他の代謝と同じく加齢や運動不足により低下する」そうですが、これを裏返せば「トレーニング等で筋肉を増やすと食事誘発性熱産生は高くなる」ということになります。

 その他にも同サイトには「よく噛まずに飲み込んだり、流動食だけを摂る場合に比べると、よく噛んで食べる方が食事誘発性熱産生は高くなる」と紹介されており、「よく噛んで食べること」が食事誘発性熱産生を向上させる方法であることがわかります。

 また、出典は別になりますが、(株)明治さんのサイトに挙げられていた記事によると、朝食(7時)の方が夜食(深夜1時)の4倍の食事誘発性熱産生があるそうです。(日本栄養・食糧学会誌, 63, 101-106(2010)でも報告されているとのこと)。

 よく「ダイエットのために朝食を抜くと、かえって太る」とか「夜遅く食事すると太る」という話を聞きますが、こういう研究結果が論拠になっているのでしょうね。

 ここまでをまとめると、食事誘発性熱産生を高める方法としては以下のようなものが挙げられるようです。

  • 高たんぱく質な食事を心がける
  • よく噛んで食べる
  • 朝食を抜かず、朝型の生活・食事スタイルにする(夜遅くに食事をしない)

 さて、どうすれば食事誘発性熱産生を高められるかは分かったのですが、これが本当にダイエットに有効なのでしょうか

 仮にカロリー消費が高められたとしても、その向上幅がごく僅かであれば、現実問題としてダイエットの足しにはなりません

 あんじょうが過去の記事で毎回言及している「どの程度効果があるのか」という観点ですね。

 次の項では、「食事を高たんぱく質にした場合」と、「同じ献立・カロリーでも朝型の生活・食事スタイルにした場合」でどの程度食事誘発性熱産生が変化するか試算してみたいと思います。

食事誘発性熱産生を上げることはダイエットに有効か?

 さて、「食事を高たんぱく質にした場合」と「朝型の生活・食事スタイルにした場合」、順に確認していきましょう。まず始めに「食事を高たんぱく質にした場合」です。

食事を高たんぱく質にした場合

 具体的な食事内容を例に出して比較したいと思います。

 ここでは、脂質の多い食事として「カツカレー」、高たんぱく質の食事として「焼鮭定食」を例に挙げ、それぞれのカロリー、PFCバランス(たんぱく質・脂質・炭水化物のバランス)は栄養管理アプリ「あすけん」のデータを参照することとします。

 まず、カツカレー(某外食チェーン店の並盛)のカロリー・PFCバランスは以下のとおりです。

  • エネルギー:993kcal
  • たんぱく質:30.6g
  • 脂質:39.8g
  • 炭水化物:122.9g

次に焼鮭定食(焼鮭1切れ、味噌汁1杯、ご飯180g)のカロリー・PFCバランスは以下のとおりです。

  • エネルギー:501kcal
  • たんぱく質:36.6g
  • 脂質:9.1g
  • 炭水化物:73.7g

 そもそもの総カロリーが倍近く異なるので、比較できるよう「500kcalあたり」でPFCバランスを算定し、その上で食事誘発性熱産生を比較してみましょう。

食事誘発性熱産生は、以下の式で算定します。

  • たんぱく質の食事誘発性熱産生= 重さ(g) × 4kcal/g × 30%
  • 脂質の食事誘発性熱産生= 重さ(g)×9kcal/g × 4%
  • 炭水化物の食事誘発性熱産生= 重さ(g)×4kcal/g × 6% 

結果は下表のとおりです。

栄養素別食事誘発性熱産生カツカレー約半皿(500kcal)焼鮭定食(500kcal)
たんぱく質15.4g×4kcal/g×0.3=18.5kcal36.5g×4kcal/g×0.3=43.8kcal
脂質20.0g×9kcal/g×0.04=7.2kcal9.1g×9kcal/g×0.04=3.3kcal
炭水化物61.9g×4kcal/g×0.06=14.9kcal73.6g×4kcal/g×0.06=17.7kcal
食事誘発性熱産生(合計値)40.6kcal64.8kcal
「カツカレー」と「焼鮭定食」の食事誘発性熱産生の差

 炭水化物と脂質の多い食事代表格であるカツカレーですと、摂取カロリー500kcalに対し約8%程度の40.6kcal、高たんぱく質な食事である焼鮭定食ですと摂取カロリー500kcalに対し約12%程度の64.8kcalとなりました。

 前項で「食誘発性熱産生は、栄養素別で見れば摂取エネルギー(カロリー)の4%〜30%と差があるが、平均すると10%程度だ」と言いましたが、概ねそれに近い値といえるでしょう。

 この結果を見ると高たんぱく質な食事の方が、食事誘発性熱賛成は大きくなり、その差は1.6倍(=64.8÷40.6)にもなります。しかし、お互いの「比率」でみれば差は大きいものの、実際の食事においては数十kcal程度のものであり、全体で見れば「摂取カロリーの10%前後」という言葉の中に収まってしまう程度の差しかありません

朝型の食事・生活スタイルにした場合

 次に朝食をしっかり食べる「朝型の食事・生活スタイル」にした場合の話をします。これは、自分で計算するより、前述の研究結果を引用させていただいた方が適切かと思いますので、以下に概要と結果を要約してお示しします。 

実験の概要と結果
  • 平均年齢20.5歳の女性33名を対象として実験。
  • 実験内容は一律500kcalの食事を7:00、13:00、19:00に摂取する「朝型グループ」と、同じく13:00、19:00、01:00に摂取する「夜型グループ」の2グループで食事誘発性熱産生の大きさを比較するというもの。
  • その結果、朝型のグループでは「7:00」の食事が他の時刻の食事に比べ明らかに大きく、夜型のグループでは深夜1時の食事が他の時刻の食事に比べ明らかに小さかった。
  • このことから、夜型の食事は1日あたりのエネルギー消費量を減少させ肥満の一因になる可能性が示唆された。

論文はこちらからご確認いただけます。(日本営業・食料学会紙 第63巻 第3号)

なお、実験結果を示したグラフ(明治さんのサイトからの引用)はこちらのとおりです。

※ 明治さんの記事原文はこちら

こちらのグラフを見ると、3時間の食事誘発性熱産生の値が意外と小さいように思われるかと思いますが、これは、食事500kcalの内訳が「おにぎり2個とゆで卵1個にバナナ1本」という炭水化物中心の食事であり、摂取カロリーに対する熱産生の割合が小さいためです。

 このグラフを見て気づくのは「確かに、朝7時の値と深夜1時の値をみると4倍差があるが、消費エネルギーの差は朝昼晩の3食分の熱産生の値を足したもので比較しないと不適切だ(=「4倍差がある」ことだけを切り抜いてはいけない)」という点です。

 この論文に記載された3食分(各食3時間計測×3食=9時間計測)の食事誘発性熱産生を比較すると、その値は、

朝型:0.878kcal/kg/9h
夜型:0.654kcal/kg/9h

でした。この双方の差を見ると、

0.878÷0.654= 1.34倍

という結果です。

比率にすると結構な差があるように思うのですが、仮に体重50kgの人であれば、

(0.878-0.654)kcal/kg × 50kg = 11 kcal

となり、朝型の食事パターンにした場合と、夜型の食事パターンにした場合の消費カロリーの差は11kcal程度にしかなりません。

もっとも、たんぱく質の比率が多ければ、熱産生の値ももっと大きくなるのでしょうが、それでも「朝型」と「夜型」の消費カロリーの差は1日あたり数十kcal程度と考えるのが妥当なようです。

「食事誘発性熱産生」を増やすことはダイエットに意味がないのか。

 以上、巷で「食誘発性熱産生を上げる」と言われている方法について、実際に「どの程度」上がるのかを計算してみました。

 結果、「確かに、代謝は上がる(カロリーは消費する)が、単発でダイエットに大きく影響するほどの差はでない」というのが結論のようです。

世間で一般的に言われる「XXをすれば痩せる」「XXという運動の方がカロリー消費が大きい」という言説には、この類の話が多いように思います。

 では、食誘発性熱産生を増やす努力をしないで良いのか?というと、そうとも言い切れません。たとえ、1日数十kcalであっても、「塵も積もれば山となる」の言葉どおり、毎日・毎食の繰り返しを積み重ねると無視できない値になります。 

 申し上げたいのは、どのようなダイエット方法であっても、痩せたり、カロリー消費する仕組みを理解して、「どの程度の効果があるのか」を把握した上で付き合うことが大事だ、ということです。

 今回の「食事誘発性熱産生」に関して言えば、「朝型の方が食事誘発性熱産生が高い」という言葉を鵜呑み(曲解?)して「晩に甘いものを食べると太るけど、朝方に食べるならセーフ」…という発想になってしまうと、簡単にカロリーオーバーしてしまいます。こういったことを避けるために、ダイエットのための知識を正しく身につけた上で、地味ですが「チリも積もれば山となる」を日常生活に取り入れていくことが大事だと思います。

まとめ

 いかがでしたでしょうか。最後に、本日のお話をまとめておきます。本日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

  • 代謝には「基礎代謝」「活動代謝」と「食事誘発性熱産生」がある。
  • 「食事誘発性熱産生」は全消費カロリーの10%程度を占める。
  • 食事誘発性熱産生が大きいのは、たんぱく質。食事で摂取するカロリーの約30%を消費する。
  • 食事誘発性熱産生を上げる方法として一般に言われているのは「高たんぱく質の食事をすること」「よく噛むこと」「朝型の食事・生活パターンにすること」。ただし、実際に計算してみると、向上幅は1食あたり数十kcal程度で、単発ではダイエットに大きな影響は期待できない。
  • しかし、「塵も積もれば山となる」なので、正しい知識に基づいて「食事誘発性熱産生」が高くなるような生活を心がけるべき。
この記事をシェアする
  • URLをコピーしました!
目次