AROUND60 FITNESS(ロクマルフィット)をご覧いただきありがとうございます! 筋トレ歴10年の副業ライターあんじょうです。
筋トレを行う上で、ある程度の柔軟性は怪我防止や関節の可動域確保のために重要です。筋肉は加齢やトレーニングにより硬くなってしまうので、ストレッチなどで意図的に柔軟性を維持・向上させる必要があります。
このように筋トレとストレッチは切っても切れない関係なのですが、Googleで「ストレッチ」を検索すると、筋トレではなく「ストレッチ 痩せる」とか「ストレッチ ダイエット」というサジェスト(文字を入力すると候補として挙がるキーワード)が表示されます。
「ストレッチ 痩せる」…これはまた、「ストレッチをすれば痩せる!」的な記事が上位にきているかな、と思いつつ検索結果をチェックしてみると、予想通り「ストレッチでダイエット!」的な記事が上位に並んでいました。
特定の記事について否定したり悪口を言うつもりはありませんが、「嘘ではないが正確ではない」説明で読者の勘違いを助長しかねない情報だけが流布されている状況は好ましくないと思いますので、この機に「ストレッチをして痩せよう」と思っている方に向けて、いくつか「知っていただきたいこと」をお伝えしたいと思います。
この記事では以下のお話をさせていただきます。
- 巷の「ストレッチで痩せる」という言説の内容・根拠。
- ストレッチの痩身効果は、どの程度のものか(それで痩せられるか)。
- ダイエットにおけるストレッチの必要性。
では、参りましょう。
「ストレッチで痩せる」という言説の内容
最初に「ストレッチで痩せる」と書かれている記事の内容を見ていきましょう。複数の記事をチェックしてみましたが、概ね以下のような内容です。
- ストレッチをすると血行が良くなる。体温も上昇して自律神経も整う。
- 血行が良くなるとむくみが解消される。体温が1度上がると基礎代謝は13%上がる。
- 基礎代謝が上がるので、痩せやすい体になる
激しい運動をした場合とは比較にならない程度ではありますが、確かにストレッチをすれば血行はよくなります。むくみを解消して「見た目が痩せたように見える」ことだけを取り上げているなら「ストレッチで痩せる」という説明も間違いではないでしょう。
しかし、「ストレッチは血行を良くする→血行が良くなれば体温があがる→体温が上がると代謝も上がる(体温1度につき代謝13%アップ)→だからストレッチで痩せる」という主張、これは若干無理があると思うのです。
この「体温が1度上がると代謝が13%上がる」の出典は調べても探し切れなかったのですが、筋トレ関連のサプリを販売している某食品メーカーのブログや某フィットネスジムのブログ、果ては医療機関のブログにも同様の記載がありましたので、(ネット上で使いまわされているだけなのかもしれませんが)、なんらかの根拠のあるデータなのだと思われます。
ただ、それが仮に正しいとして、これを根拠に「だからストレッチをすれば痩せる」と結びつけるのは短絡すぎで少々無理があるように思います。以下、順を追って説明します。
体温が1度上昇すれば、どの程度消費カロリーが増えるか
「体温が1度上昇」したときの消費カロリーを計算してみる
まず、手段はともかくとして、体温が1度上昇した場合、どの程度の基礎代謝上昇とカロリー消費量の上昇が図られるかを見ていきましょう。
平均的な女性の基礎代謝は1,200kcal/日程度ですので、体温が1度上昇して基礎代謝が13%上昇すると以下のような計算式が成り立ちます。
基礎代謝 1,200kcal × 13% = 156kcal /日
おにぎり1個が240kcal程度ですから、おにぎり半分強のカロリーですね。
「おにぎり半分強のカロリー」が消費されることの意味
「156kcal=おにぎり半分強程度のカロリー」というと、小さいように思えますが、ダイエットの世界は「継続は力なり」ですので、馬鹿にはできません。
体脂肪1kgを減らすのには、7,200kcal消費する必要があるとされていますが、仮に基礎代謝が156kcal上昇するならば、
7,200kcal ÷ 156kcal/日 ≒ 46日
となり、日々生活しているだけで、約1.5ヶ月で1kg痩せられる(除脂肪)ことになります。また見方を変えれば(現在体重に変化がないとすれば)3日に1回程度ケーキ(400〜500kcal)を多めに食べたとしても、体重は変わらない、ということになります。
これは、おいしいですね。「体温が1度上がる」ことの恩恵は結構ありそうです。
ストレッチで体温や基礎代謝が上昇する?
ストレッチで体温は上昇するが…
では、次にストレッチで体温が上昇するかどうか、という話をしましょう。
実際に試していただく方が話が早いのですが、結論的には「ストレッチをすると体温は上昇する」と言えます。ストレッチを10分〜15分も行えば、季節によっては汗が滲む程度には体がポカポカしてくるはずです。
ただ、これはストレッチという「運動」をしたことにより活動代謝(=運動によるエネルギー消費)がおこり一時的に体温が上がっただけであり、「平熱」が上がったわけではありません。
もし、ストレッチを行うことで平熱が上がるのでしたら、平熱が36度後半の方はストレッチをすると一日中体温が37度以上(=微熱)になりフラフラになってしまいます。現実にはそのようなことにはならないのは、体温の上昇が一時的なものだからです。
実際に、ストレッチをやめてしばらくすると身体のポカポカは治ることからも、体温上昇が一時的なものであることは感覚的にもご理解いただけるかと思います。
ストレッチで促進されるのは「活動代謝」であり「基礎代謝」ではない
ストレッチを行なうと体温は上がり代謝も促進されますが、促進されるのは運動による代謝、すなわち「活動代謝」であり「基礎代謝」ではありません。
このことは基礎代謝の計算式を見ていただければご理解いただけると思います。
基礎代謝の計算方法は複数ありますが、ここでは国立スポーツ科学センターの基礎代謝量計算式をご紹介します。
基礎代謝量=28.5×除脂肪体重(※1)
※1 除脂肪体重=体重ー脂肪量(※2)
※2 脂肪量=体重×体脂肪率
この式からわかるように、基礎代謝は除脂肪体重と比例の関係にあります。
「除脂肪体重が増える≒筋肉が増える」であり、「筋肉が増える→熱産生が増える→体温があがる」なので、筋肉が増えることで、基礎代謝と体温は上昇します。
逆に言えば、平熱を上げ、基礎代謝を上げるには「筋肉を増やす」しかない、ということでもあります。そして、ストレッチでは「筋肉を増やす」効果は期待できないので、残念ながら「ストレッチでは基礎代謝は増えない」というのが実際のところだと思われます。
一般に「筋肉をつければ基礎代謝があがる」と言われるのは、この式を根拠にしています。
ここまでを整理すると以下のようになります。
- ストレッチで増えるのは「活動代謝」であって、「基礎代謝」ではない。
- 基礎代謝は増えなくとも活動代謝は増えるので、表現として「ストレッチで『代謝』が増える」は間違いではない。
- ただし、ストレッチをすればその後も代謝の高い状態が続く…という説明は乱暴。
- 活動代謝と基礎代謝を混同するから話がややこしくなる。
ストレッチでは痩せないのか?
ストレッチで消費されるカロリーはどのくらいか
では次に、ストレッチによる「活動代謝」がどの程度かを見ていくことにしましょう。
ご承知のとおり、ストレッチは「軽い運動」の一種です。運動をすると体内で化学反応がおこりエネルギー(≒カロリー)が消費されます。これが「活動代謝」です。
この運動の強度(≒消費カロリー)を計測する単位に「METs(メッツ)」というものがあり、ストレッチは2〜2.5METsとされています。これは「宅内で家事をする」のとほぼ同じレベルの強度です。
ウォーキング(3.5METs)やジョギング(7METs)と比べるとずいぶん見劣りする値ではありますが、それでも長時間続けていれば疲れを感じる程度の強度ではあります。
このMETsから消費カロリーを計算するには、以下の計算式を用います。
消費カロリー(kcal)=1.05×METs×時間×体重(kg)
つまり、体重50kgの女性が15分ストレッチをした場合ですと、消費カロリーは
1.05 × 2 METs× 0.25時間 × 50kg = 26.25kcal(註:ストレッチ=2METsとして計算)
となり、消費カロリーはごくわずかです。これでは、残念ながら目に見えるような痩身効果は期待できないでしょう。
ストレッチはダイエットに無用か?
では、ストレッチはダイエットに全く貢献しないのか、と言えばそうでもありません。
筋トレ前後のストレッチは筋トレの効果を引き出すのに有効ですし、怪我の予防にもなります。自律神経を整える効果により、食欲のコントロールも期待できるでしょう。
つまり「やらないより、やったほうが良い」ことは間違いないです。定量的に計測できるものではありませんが、起床時のストレッチで体や気持ちを活性化させ、夜入浴後のストレッチで心身のバランスを取る…。数値化は難しいですが、体に良いことは間違いなく、副次的な効果としてダイエットを後押ししてくれることになると思います。
今回、知っておいていただきたかったのは、「ストレッチをしているから(代謝が上がっているから)多少食べても大丈夫」とはならない、ということです。
ストレッチはダイエットやボディメイクにおいて取り入れるべきことではありますが、それ自体がカロリー消費に直接的な効果があるとは考えないほうが良い、ということだけ覚えておいてください。
最後に:ダイエット方法は「なぜ」「どのくらい」を要チェック
以上、「ダイエットで痩せる」という言説を信じる前に、知っておいていただきたい事項を整理させていただきました。
まとめると、
- ストレッチでは活動代謝は増えるが、基礎代謝は増えない。
- ストレッチによる活動代謝(消費カロリー)は小さいのでダイエット効果はほとんどない
- ただし、筋トレ前後に行うことによるパフォーマンスアップや、自律神経の安定を図る上で有効な手段であり、やらないよりはやったほうがダイエットのためになる
ということになります。
最後に「ダイエット方法」が本当に効くのかどうかを判断するための簡単な方法をひとつご紹介します。
本当に効くかどうか、それは
「どういう仕組み(理屈)で」「どのくらいやれば」「どの程度痩せるのか」についての説明が十分かどうか
が明確に説明されているかどうか、でわかります。
無理・無駄な努力に時間を費やさないよう、ダイエットで体重や脂肪が落ちる「理屈」を知り、効率的かつ楽にボディメイクをしていきましょう。それでは、今回はこのへんで失礼します。お読みいただきありがとうございました。